受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 607 西郷どん! (上)/ 林真理子 著 を読みました。

西郷どん! 並製版 上

西郷どん! 並製版 上

 
amazonに投稿したレビュー
を転記します。

2018年NHK大河ドラマ西郷どん」の原作。
第一回放送のテーマ曲が流れるタイトルロールに「原作林真理子」と表示されたのを見ました。早速探して購入しました。
僕は、林真理子の小説が好き。

 

本品(並製版)はソフトカバーで、上中下の三分冊です。
上製版はハードカバーで上下の二分冊です。
僕は毎日仕事のバッグに入れて、少しずつ読みます。
ソフトカバーの本品が持ち運びやすくて、外で読むのにも良い、と考えて並製版(ソフトカバー)を選びました。
内容は同じだそうです。(本のカバーの見開き(内側)にそのように但し書きがありました。)

 

本日「上」激動の青春編!を読み終えました。
物語は、京都市長時代の長男、菊次郎(愛加那の子。1861~ 1928。外務省、京都市長など)が、亡き父を語るかたちで進みます。
菊次郎が京都市長に着任する1904年10月日露戦争中)からスタートします。
しかしながら、西郷隆盛の物語が始まると、ほとんど菊次郎は登場せず、(菊次郎の語り口調でなく)ふつうの小説として西郷隆盛が語られます。
「上」編では、西郷隆盛出生の頃1828年。江戸時代末期)の世相から語られ、
1857年西郷満29歳。島津斉彬の密使として活躍を始めるまでです。

 

林真理子歴史小説の特徴であるところの、説明的でなく、あたかもその場に居合わせたように、場の雰囲気を体感させる文体は、この作品でも生きています。
特に西郷隆盛のモットー、と言うか生きていく上での心構えが、僕自身の持ち合わせでもあるかのように感じられれ、心地よく読み進みました。楽しい読書のスタートでした。
貧しいことを恨まず、僻まず、心がけをしっかり持って、正しく生きようとする姿勢は見倣いたいと思いました。
また、このあとNHK大河ドラマでは(家族で見る時間の放映ですので)あるいは端折られるかもしれませんが
「さすが林真理子」と思えるのは、最初の妻伊集院須賀との関係の描き方です。
男女の機微に疎い作家だと、紋切り型に欲と体裁を語るところだと思われますが(また、物語としては、紋切り型の方がわかりやすく、受けが良いと思いますが)林真理子の小説は安直な手法は用いません。
天然痘治癒痕が残る容姿を引け目に嫁いで来た須賀を不憫に思いながらも、同情を欲に交えることを潔しとせず、関係を深められないことに悩む西郷隆盛の心理描写が秀逸だと思いました。

 

このあと、正義と大義、些事にとらわれず大局を見る目を養って世に出て行く西郷の、まだ身近な範囲での世間で苦労を重ねる姿が上巻で充分に語られたと思います。
「中」「下」と読み進んでいくのが楽しみです

2018年 1月25日
No. 607
物語では、語り部の菊次郎が、度々不遇の妹=菊子(1862~1909)を案じていますが、具体的には語られません。気になったので調べたところ、kanankoboさんのサイト「西郷隆盛の妻、および西郷家の女性たち」
でうかがい知ることができました。なるほど菊子の不遇を具体的に語ると、物語の注意が家庭問題(いわゆる「カネ」「暴力」)に向かい、趣旨が逸れてしまいかねない、ほど不遇なのでした。
2019年 3月15日