受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 606 「司馬遼太郎」で学ぶ日本史/ 磯田道史 著 を読みました。

「司馬?太郎」で学ぶ日本史 (NHK出版新書 517)

「司馬?太郎」で学ぶ日本史 (NHK出版新書 517)

 
当代一の歴史家が、日本人の歴史観に最も影響を与えた国民作家に真正面から挑む。戦国時代に日本社会の起源があるとはどういうことか? なぜ「徳川の平和」は破られなくてはならなかったのか? 明治と昭和は本当に断絶していたのか?
司馬文学の豊穣な世界から「歴史の本質」を鮮やかに浮かび上がらせた決定版。
   カバー折り返しを転記  

のテキスト
司馬遼太郎スペシャル 2016年3月 (100分 de 名著)

司馬遼太郎スペシャル 2016年3月 (100分 de 名著)

 
の内容に加筆、再構成した新書版です。
amazonに投稿したレビュー
を転記します。

司馬遼太郎の、主に三大長篇を取り上げて、司馬遼太郎が私たちに何を訴えたかったのか、を解説しています。

新装版 竜馬がゆく (1) (文春文庫)

新装版 竜馬がゆく (1) (文春文庫)

 
新装版 翔ぶが如く (1) (文春文庫)

新装版 翔ぶが如く (1) (文春文庫)

 
新装版 坂の上の雲 (1) (文春文庫)

新装版 坂の上の雲 (1) (文春文庫)

 
僕は坂の上の雲だけ読んでいます。

 

坂の上の雲を読んで僕が気がついたのは、突っ込みどころがある。と言うことです。
坂の上の雲を気に入らなかった人は、史実と異なる点を引き合いに出して「いい加減なことを書いている。参考にならない。」と簡単に指摘できます。
 
例えば「乃木大将は立派な人だった」と信じたい人は、
主力への正面からの突撃作戦は、本営の指示にやむなく従ったもので、乃木は無能ではなかった。
司馬遼太郎が書いていることは間違っている。
と言えば良いです。
 
まず、磯田さんのこの本では、この突っ込みどころについての読み方を”司馬リテラシー”として指南しているところがありがたいです。
司馬が意図的にわるものを設定し、そこに(乃木じゃ無いかもしれないけれど)まずい作戦、考え方があったことを示している。と解説しています。だから、個々に史実と異なる点を指摘して、司馬作品を敬遠するのではなく(乃木じゃ無いかも知れないけれど)まずかった点、間違った考え方から僕たちが学ばなければならない点をよみとるべきなのだ。読み取ることができるのだ。と解説しています。
 
司馬遼太郎が執筆している当時、僕は小学生でした。
学校では、戦前、戦中のことを
「戦争をする悪い時代でした。」
と単純に習った記憶があります。
坂の上の雲を読むと、戦前戦中をひとくくりにして「悪い時代」と理解するだけでは理解に不足があり、
終戦までの昭和と、明治時代が異なることを示し、その違いから、学ぶべき点があることを指摘していることが解ります。
では、終戦までの昭和の時代は、何がまずかったのか。
 
実際に司馬遼太郎作品を読むと、なんとなく言わんとしていることが解るような気がするのですが、具体的に、どうしろ、こうしろとは書いていまぜん。司馬遼太郎作品は小説ですので当たり前ですが)そこで、本書=磯田道史氏の解説がありがたいわけです。
例えば、現代の日本では少子化を語る際に
「政策の失敗で、少子化が進んだ。」
と、政府を批判するわけですが、
司馬遼太郎が語る明治時代の人だったら
「政府の政策がうまくいっていない。ならば、自分でできる事をしよう。」
と考える、と解説しています。
そうすると、案外僕たちは明治時代の人よりも、昭和の前期の人たちの考えに近づいているのかも。と思い、冷や汗が出ます。
(ちなみに、少子化の例は僕が思いついた(あまりうまくない)例で、本書では、経済を例に、もっとわかりやすく解説しています。)
 
また、僕の浅い読書で陥りそうだった過ち=「じゃ、明治の時代が良かったね。」と言いそうになるところを、本書はあらかじめ指摘して、誤読を回避させてくれています。
実は昭和前期の勝手に戦争を始める陸軍の体質は、日露戦争の後処理が起因している側面がある、と。
 
ところで、坂の上の雲で、司馬が秋山真之を美化し、必要以上に持ち上げている、と誤読(または読まずに思い込みで)批判している人が書いた文章を散見します。
実際には、奇人、紙一重の天才である側面もしっかり記されています。
(ふんどし主義を実践しようと、士官制服の上から、ベルトをきつく締めて艦橋に現れたところで、東郷にいやな顔をされる、とか)
ですが、実際に読まないと
「軍人を持ち上げてて、説教を垂れる小説」
と勘違いするケースもあるようです。そういう点も本書=磯田道史さんの本では先回りして予防線の解説をしています。
ですので、今後も司馬遼太郎作品を読む可能性が低い人にも、薄い一冊のこの本がありがたいだろう。と思いました。

批判をするなら、自分でできる事を探して実践しろ。と司馬先生が教えてくれている、と思い直すことが出来た一冊でした。
だから、司馬作品は民間企業の経営者に人気なんですね。
2017年 9月24日
No. 606