受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 588 リップヴァンウィンクルの花嫁/岩井俊二著 を読みました。

リップヴァンウィンクルの花嫁 (文春文庫)

リップヴァンウィンクルの花嫁 (文春文庫)

 

皆川七海。二十二歳。大学を卒業して社会人になった。二十二年間、男女交際歴ゼロ。
2016年3月26日公開予定の映画「リップヴァンウィンクルの花嫁」岩井俊二監督本人による原作小説です。

インパクトがありました。
導入部では、比較的ストレートな物語かな? と推測して読み進みました。たとえば「男女交際歴が無い女の子が、早まって結婚をしました。でも、いろいろあって幸せをつかみました。」と。

が、しかし。
物語が進むにつれ、徐々に様子が変わっていきました。
「そりゃ、岩井俊二監督作品の原作なんだから、一筋縄じゃ終わらないよな。」
読み終えた直後の感想です。
ノワールの要素を含んだハードボイルド作品です。そして、物語が提示するテーマは愛。そして、幸せ。
期待をしていなかった分も含めて、衝撃的でした。

読み終えて、一週間。著者のメッセージのようなものに思いを巡らしながら過ごしました。
運命に翻弄される皆川七海。でも、彼女がこの小説で味わう運命は、仕組まれた人災。単なる自然災害や、不慮の事故ではない点に著者のメッセージがあるのではないか。と思いました。

自然災害や、不慮の事故ならば、運命を呪うだけで済ますことができるかもしれません。
また、犯罪被害であれば、加害者を呪えば気が済むケースもあると思います。
しかし、この物語での皆川七海は、だれも恨みませんし、呪いもしません。逆に、親切な人に恵まれ、運も良かった、と感じているはずです。
真白にさえも「多くのものをもらった」と感謝し、今度こそ自分一人で生きて行く、と決心しています。

僕は、この物語から「運命は自分で切り開くもの」と読み取りました。小説の皆川七海は、とりたてて志をもって何かを目指しているわけではありません。その時に出来ることをしているだけです。七海自身も自分で切り開いたとは思っていないかもしれません。ですが、過酷な一年を経て七海は成長し、新たなスタートラインに立ちました。この変化は、自分の身に降りかかった出来事を前向きにとらえた七海の心の持ちようだ、と僕は思いました。僕の読書に偏りすぎているのでしょうが、僕も、今からでも自分の人生を自分のものとして受け止め、これから、いくらでも新たな扉を開いていこう、と前向きの気持ちになりました。

2016年3月8日
No.588

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