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受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 575 女は男の指を見る/竹内久美子著 を読みました。

女は男の指を見る (新潮新書)

女は男の指を見る (新潮新書)

 
Kindle版もあるようです。
女は男の指を見る(新潮新書)

女は男の指を見る(新潮新書)

 
生物進化の要素は、変異、遺伝、選択。三つの要素のうち「選択」は、自然淘汰として教わった記憶があります。僕は、自然淘汰を「適者生存=生き残れるかどうか」として理解していました。
そこで、人間についてはどうだろう?と考えたときに、中学校の保健体育の時間に「江戸時代は平均寿命が二十歳でした。」と習った事を思い出しました(※1)
(※1)江戸時代の平均寿命をインターネットで検索して調べると、おおむね四十歳前後と認知されている様子がわかりました。僕が中学校の保健体育で習った「二十歳」とだいぶ異なります。これは、江戸時代の統計が、現代の戸籍に相当する宗門改帳によるものであり、宗門人別改めの期日までに亡くなる新生児、乳児の死亡率が含まれていない事による差だと思います。明治時代の新生児死亡率と乳児死亡率の合計は22%です。江戸時代はもっと多かったのではないかと思います。(乳幼児死亡率を加味しない平均寿命が四十歳で、加味すると二十歳だとすると、乳幼児死亡率が50%と計算されます。少し高すぎるような気もしますが、今は追及しません。)
江戸時代までは子孫を残すまで生きながらえるのが難しかったのだな。現代は、多くのひとが大人に成長するから、人間は自然淘汰されていないな。文明が発達した人間は、これ以上進化しないんだな。と理解しました。
ところで、現代では、進化の要素である「選択」は自然淘汰だけではないことが知られているようです。そもそもダーウィン(Charies Robert Darwin, 1809/ 2/12 ~ 1882/ 4/19 英)が指摘している、異性による選択です。(孔雀の雄の華美な羽模様を説明する仮説として着想したそうです。)異性によるパートナーの選択も進化を進める選択になるそうです。学校で習った覚えがありませんが。そうなると、人間にもモテるひととモテない人とで子供の数が違うので、現代人にも選択があり、進化があるのだな。と理解を新たにしました。
では、モテる人とモテない人の違いは何?

 

と言うわけで、本書は「モテる男」の要素として研究が進みつつある男性の薬指の長さについて、最近の研究成果を紹介しています。

第1章 人類最大の発明と繁殖の掟
他の類人猿と比較して、人類に特徴的な繁殖行動を紹介しています。女性が自身で発情期を意識しない点、男性生殖器が大きく、特徴的な形状である理由と、人種間での差など。つまり人間も他の動物と同様に、種独自の進化があって現在の状態にあると言うわけです。
続いて、人間以外の動物に目を向けます。ベトナム戦争への反戦運動が活発だった頃に、時々耳にした「同じ種で殺し合いをするのは人間だけです。」(※2)と言う件について。
(※2)僕は子供の頃に、「戦争を起こし、人間同士で殺し合うのは人類だけです。野生動物は、肉食動物が生きるために他の動物を狩りで殺すことがあっても、同種同士では決して殺しあいをしません。理想的な平和社会に生きているのです。」と時々耳にしました。でも、これは、1960年代以前生まれの世代に限られるようです。若い人は、「そんなこと聴いたことがねぇ。」とおっしゃります(^◇^;)マイッタ(^_^;)歳を感じてしまいました(^_^;)
その後、動物の研究が進んで同じ種同士で殺し合いをする動物が見つかりました。そして、その効果もわかってきました。
この章では、同種の動物同士の殺し合いの例を日本の研究者が発見したハヌマンラングール(オナガザル科)で紹介しています。他にチンパンジーやゴリラ、ライオンなどでも殺し合いが見つかっているのだとか。
自然界の動物は、人間社会が羨むような平和な社会ではありませんでした。同種の生物内でも殺し合いがありました。
それは、なぜなら、生物に「種の保存」なる本能が無いから。と、続きます。異性に惹かれ、子孫を残す行動は「種の保存本能」によるものではありません。(もちろん、その理由を「わたしにも、種の保存の本能があるのね。」と思うのは個人の勝手ですが。)では、子をなしたいと願うその原動力は、と話を続けます。
第2章 女は男の指を見ている  Hox遺伝子の話
本題に入って、先ずは男の魅力としての「指」研究の内容を紹介しています。ちなみに、僕の指比は日本人としては平均です。(外見は、ときどき「典型的なニッポン男児だね。」と言われる、男性性を強調したような外見だそうですが、実は平均的な男性と言うことのようです。)
第3章 ハゲの発するメッセージ  テストステロンの話
男性ホルモンであるテストステロン、および男性ホルモンが働く時の2水素化されたテストステロン(ジヒドロテストステロンの作用について。
第4章 「選ばれし者」を測ってみると  シンメトリーの話
指研究のすこし前に流行った魅力的な人(を含めた動物全般)の左右対称性と、子孫を残す数の研究結果のご紹介。
第5章 いい匂いは信じられる  HLAの話
男性自身の魅力から話を発展させて、魅力的な(と、言うか、自分との相性が良い)男性を見極める女性の能力について。
自覚しないレベルの匂いの感度で、女性が匂いで男性に好き嫌いを感じるのには、ワケがある。と匂い研究を紹介しています。
第6章 浮気をするほど美しい  浮気と精子競争の話
第5章までの医学的な(形質的な)研究内容から行動学的な研究結果に話題を移します。類人猿の婚姻形態から、人間に話題を移し、さて伝統的な日本人はどうか。良識的には、一夫一妻制度ですが。。。
第7章 日本人はあえて「幼い」  ネオテニーの話
最後は日本人論。女性から見た男性の役割として、生物学的観点での場合の環境適応性とはいかなるものか。社会学的な良き夫とはずいぶんと異なる結論のような気もしますが、逆に言うと、それぞれの社会での「良き夫」は環境によって異なる理由になっていると思いました。
環境が異なる地域の社会常識にカルチャーショックを受ける事があります。僕は、カルチャーショックを受けると、今までは「非常識な人。」「ろくでなし。」と思ってしまうことがありました。が、彼の環境では、左様な男が「良き夫」なのだな。と理解の手助けになったように思います。
読み終えて思い返すのは、著者のデビュー作が「浮気人類進化論」(文春文庫1998/11/10)
だった事です。当該デビュー作では、主に鳥類の(浮気を含めた)婚姻形態研究結果から発展させて人間の場合を考察していました。二十年以上経た今、他の種だけではなく、人類自身についての研究が進み、直接人間を考察できるようになっている事に気が付きました。
本書は、進化論の成果から得られる議論=環境に適応して、より多くの自分の子孫を残そうとする生物の性質、行動の研究が、最新の内容を盛り込んで、基礎からわかるようにできています。
つまり、今まで動物行動学に馴染みのない方には「最初の一冊」として適しているのではないかと思うのですが、”人間”についての動物行動学的研究の内容は、人によっては嫌悪感を覚える分野かも知れません。
第1章にいきなり女性の生理周期、男性生殖器の類人猿との比較をもって来ているのは、人間の研究を紹介する上で、避けて通れない性的な議論を読み進めるかどうか=読者の選別になっているように思います。
第一章をクリアすれば、一冊を楽しく読み終えられるでしょう。
本書は、日本人の生物学的特徴と、社会習慣の特徴について述べて締めくくっています。
僕は、最終終章を読んで、逆に他の国、特に一夫一婦制でない、社会常識が異なる地域への理解が進み、寛容になれたように思います。希有な一冊でした。

2015年 7月20日
No. 575