受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 573 ムーミン谷の夏まつり/ヤンソン著 を読みました。

脂の乗ったシーリーズ第5作

トーベ・ヤンソン(Tove Marika Jansson 1914/ 8/ 9 ~ 2001/ 6/27 スウェーデンフィンランド人)によるムーミンシリーズ五冊目の本。原題は「危険な真夏(Farlig midsommar)」。スウェーデン語で書かれたもので、1954年にフィンランドのシルト出版社(Schildts Förlags Ab)から発行されました。
日本では、最初に講談社文庫で出版されました。
新装版 ムーミン谷の夏まつり (講談社文庫)
 
つづいて青い鳥文庫に収められました。
そして、ムーミン童話全集に収録され
ムーミン全集[新版]4 ムーミン谷の夏まつり

ムーミン全集[新版]4 ムーミン谷の夏まつり

 
講談社文庫が21世紀版として新装され、
青い鳥文庫ムーミン全集も新装されました。
ちなみに、21世紀版文庫は、2014年にヤンソン生誕百年を記念してスウェーデン語のカバーも販売されました。
僕が読んだのは、2011年に冨原眞弓の解説付きで21世紀版として再版された講談社文庫です。

主要メンバーが勢ぞろい

本作では、主要メンバーが勢ぞろいで活躍します。
冒頭でムーミン屋敷で過ごすのは、ムーミン一家(ムーミントロールムーミンママ、ムーミンパパ)とスノークのお嬢さん、ミムラ姉妹(ミムラねえさん、ミイ子)。洪水で水没したムーミン屋敷から手に手を取って、脱出します。
スナフキンは別行動です。今年は春になってみんなが冬眠から目覚めてもムーミン屋敷に顔を出しませんでした。
本作でも過干渉の典型として登場するヘムルは公園番。
自由を愛するスナフキンは、ヘムルをこらしめるべく、夏祭りの前夜祭の日に計画を実行に移します。ニョロニョロの種(!)を公園にばらまきます。
ゲスト出演はエンマ。年をとった女の劇場ねずみです。
おなじみの脇役、ホムサとミーサ、悲しみやのフィリフヨンカも重要な役割を演じます。

ムーミンママはハンサム・ウーマン

洪水の中でムーミントロールスノークのお嬢さんがはぐれてしまいます。そのときのムーミンママが、男の子の母親として理想的なハンサム・ウーマンだと思いました。子供を信じて、うろたえることなく再会を期して一策を講じます。このムーミンママの再会への秘策が物語の主軸になります。
ムーミントロールもママの期待に応えるかのように、あわてることなく、一緒にはぐれたスノークのお嬢さんを励ましながら、冒険に臨みます。危険を回避しつつ、寝るところ、食べ物を確保し、仲間を増やしながら。最後はムーミンママの思惑通り、ムーミン一家、ムーミン屋敷に集うみんなが再会してハッピーエンドになります。

スナフキン大活躍

ムーミン一家と合流するまでのスナフキンが素敵です。ヘムルとの戦いの場となる公園には、日頃から公園番のヘムルに邪険に扱われている子どもたちがいました。執筆当時の世相を反映させたかのように、戦争孤児を彷彿とさせます。その小さい子どもたちを引き連れながらみんなの食事や面倒を引き受ける「お兄さん」としてのスナフキンの姿に頼もしいものを感じました。途中「はやく、この子どもたちをムーミンママに引き受けてもらいたいな。」と少し弱音を吐きます。でも、その弱音も、ムーミンママに引き受けてもらうまでは子どもたちの面倒を見る責任を自覚している様子がうかがえます。自分に息子がいたら、こんな男の子に育って欲しいものだ。と思いました。
その、スナフキンも最後に意地を通して警官と揉めそうになります。いさかいを収めたのは、ヘムル一族の女の子。機転を利かせて、スナフキンを説き伏せ、警官の顔を立てて、事なきを得ます。
シリーズを通してかたき役のヘムル一族ですが、それではこの世にいなくても良い存在なのか、と言えばそうではないのだ、と気が付きます。たとえ、好ましい印象を与える相手でなくても、相手の個性を見ることなく、雑に接するのは良くない。長所を見付けるようにしなければ。と改めて教えられたように思います。

 

シリーズ中盤で、脂の乗った一冊でした。
ムーミンシリーズの中でも、登場人物の個性が際立ち、それぞれの役割をしっかり引き受けながら、ハッピーエンドに続く感動的な物語です。

2015年 4月29日
No. 573

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