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受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 570 仕事の手帳/最相葉月著 を読みました。

最相葉月 仕事の手帳

最相葉月 仕事の手帳

 
最相葉月には謎があります。
「なぜ、錚々たるビッグネームに取材して、作品を書けるのか?」
です。
出世作「絶対音感小学館1998/03/10)
絶対音感

絶対音感

 
絶対音感 (新潮文庫)

絶対音感 (新潮文庫)

 
絶対音感

絶対音感

 
第一章「人間音叉」では、先ず絶対音感を持つ人に、その感覚を尋ねているのですが、僕が知っている人だけでも、井上鑑矢野顕子渡辺香津美三善晃など。ポピュラーミュージックの大御所から現代音楽の大家までが答えています。
星新一(2007/3/30新潮社)
星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一 一〇〇一話をつくった人

 
では星新一と親交があったタモリにも取材しています。
考え無しに僕の喉まで来る答えは、下品ですが
「カネ」
です。
無論口にしません。
すこし考えれば直ぐに気が付きます。
「カネ」
を使っても、インタビューはできません。
著名人に
絶対音感を持っているという感覚は如何なものですか?」
とインタビューしようと思いつき、
「さて、幾らで時間を割いてくれるかな。」
とお値段だけしか思い浮かばないとしたら、その時点でインタビューは不可能であろうと思います。

 

では、最相葉月は、どのようにして、著名人を含む多種多様なプロフェッショナルに取材して、ノンフィクション作品を書き上げるのでしょうか。

その答えが記されているのがこの本です。

四つに章立てされています。

 

1 仕事の心得
では、仕事を始めた経緯から筆を起こし、実際の取材現場の様子を含めたノンフィクションライターとしての仕事の内容を詳しく語ります。

 

2 聞くこと
では、のインタビュー番組を担当したFMラジオの番組から、「三浦しをん」「野町和嘉」へのロングインタビューを紹介しています。

 

3 書くこと
では、理系出身でない最相葉月が自然科学のノンフィクションに取り組む経験を披露した後、2009年早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコースでの講義「私のノンフィクション作法」を紹介しています。主に「星新一」執筆での取材活動を題材に、最終的には人を相手にする仕事であること。誠実さと謙虚さが必要とされることを訴えています。

 

4 読むこと
では、他者のノンフィクション作品に寄せた書評を紹介しています。
「サンダカン八番娼館」山崎朋子1972年筑摩書房
サンダカン八番娼館 (文春文庫)

サンダカン八番娼館 (文春文庫)

 
サンダカン八番娼館 (文春文庫 147-1)

サンダカン八番娼館 (文春文庫 147-1)

 
「唐ゆきさん」を取材したノンフィクションの書評。僕は星新一のエッセイ(「夜明けあと」1996/7新潮文庫
夜明けあと (新潮文庫)

夜明けあと (新潮文庫)

 
夜明けあと (新潮文庫)

夜明けあと (新潮文庫)

 
)で後にパロられて「ジャパゆきさん」となる「唐ゆきさん」なる言葉は存じ上げていました。実際の無惨で過酷な経験が記されている一冊で、是非読まねばならぬと思いました。
また、取材、執筆した著者の苦労や工夫、配慮、取材相手の思いや親切心にまで解説が加えられており、ノンフィクションライターが記す書評ならではの視点が得難いものであると感じました。

田中角栄研究 全記録」立花隆1976年講談社
田中角栄研究―全記録 (下) (講談社文庫)

田中角栄研究―全記録 (下) (講談社文庫)

 
田中角栄研究―全記録 (上) (講談社文庫)

田中角栄研究―全記録 (上) (講談社文庫)

 
僕にとっては、時代が下って立花隆と言えば、自分で取材しない人。TVのニュース番組でコメントする人。でしたので、なるほど、幼い頃にTVでよく耳にした「ロッキード事件」とは、この人が活躍して暴いたのだな。とようやく立花隆の偉業を理解しました。
他に8作品についての書評が収録されています。

 

読み終えて最相葉月の謎が解けたように思います。丁寧で誠実な仕事。そして、本書では触れられていませんが、星新一がやはりエッセイで述べていた、目先の損得でする仕事ではなく、「サービス精神」での仕事が最相葉月著作を読み応えのあるものにしていると思いました。
僕はサラリーマンなので、要領の良い人や、口の上手い人が出世していくのを目の当たりにして、時々「やってらんねぇ。」と思うこともあるのですが、先ずは最相葉月を見習って、誠実に、自分にごまかしのないよう納得しながら、仕事をしたいと思いました。

2015年 3月 5日
No.570