受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 512 女子大生会計士の事件簿 DX.1 ベンチャーの王子様/山田真哉著 を読みました。

同じ会計事務所に勤務する、女子大生兼公認会計士の藤原萌実と新人公認会計士補のカッキーこと柿本一麻のコンビが監査で出くわす事件に対応する経済ミステリー。
北アルプス絵はがき>事件  簿外入金・架空出金の話  
先ずは、単純な裏金事件から。刑事事件に対する会計士のスタンスも語られます。
<株と法律と恋愛相談>事件  債務保証・商法の話  
次は、株価操作での詐欺です。相談と聞いて萌実が、「恋愛相談?」と聞くところが面白いですが、企業相手の詐欺/恐喝の手口を紹介しているところも面白いです。
<桜の頃、サクラ工場、さくら吹雪>事件  未収入金・未払い金の話  
花見目当てに、なんとか黒字決算を目指す萌実が楽しい一遍です。
<かぐや姫を追いかけて>事件  固定資産の話  
粉飾決算の一例を紹介した一遍。
<美味しいたこ焼き>事件  売掛金の話  
物語は売掛金の話ですが、会計士の仕事の一つである銀行への残確発送業務の重要性を印象づけるこのお話は、社会的に重要でありながら、世間に認識されにくい業務を易しく紹介する模範のように感じました。例えば、証券会社に勤める人なら、幹事証券会社として新株を発行する業務などを「誰か書いてくれないかなぁ。」と思うところでしょう。
また、おそらく学校を卒業して間もない若い人たちへの悩みの助言にもなっている一遍だと思います。
<死那葉草の草原>事件  土地評価の話  
「死那葉草[しなばそう]」とは何か? この謎を巡って、地場産業を手がける企業の監査を進めます。上場企業の「株主重視」の傾向が高まる昨今に於いて、地域に根付いた企業の社会的責任にも目を向けた一遍です。
<ベンチャーの王子様>事件  SPC(特別目的会社)の話  
粉飾決済を意図したのは誰なのか。職種を超えて一番難しい課題に取り組む萌実の大人な選択。
女子大生会計士の事件後
解説として、一年間の仕事を振り返るカッキーと萌実。
一応ミステリーの形式を取っているので、感想を書くのも注意を要します(^^ゞ 「この解き方が面白かった。」と言う類の感想を遠慮したのですが、すると「何が面白かったのか」分からなくなるのが辛いところですが(^^ゞ あまり工夫に時間を費やすよりも、感想のアップロードを優先させました。
おそらく、本格的ミステリーとして読むと、つっこみ処満載の短編集なのでしょう。例えば、この小説が気に入らないなら「ここが矛盾である。」などと指摘することも出来るのでしょう。
でも、読書には「自分が経験できない世界を疑似体験する。」楽しみがあり、この短編集の場合には、それが公認会計士なのです。司法試験、医師国家試験、不動産鑑定士試験などと並んで難関国家試験を合格が必要な資格なだそうですが医師とは違って日常生活を送る上では身近な職業ではありませんよね。そんな職業を疑似体験する楽しみがあります。
そして僕は、気楽に会計士の業務を垣間見ながら、若くて優秀な会計士と、新米の会計士補の奮闘を楽しみました。
特に最後の<ベンチャーの王子様>は、おそらく業種を超えて、仕事をする上で最も難しい課題であろう、「勤め先との利益対立を孕む課題」「同じ職場の責任者との対決」が描写されています。正義感だけでは解決できない課題に若さと大人の判断を混ぜながら取り組む萌実を見事に感じました。
2009年3月9日
No.512