受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 523 祖先の物語(上) ドーキンスの生命史/リチャード・ドーキンス(著) を読みました。

祖先の物語 ~ドーキンスの生命史~ 上

祖先の物語 ~ドーキンスの生命史~ 上

 

 虹の解体

虹の解体―いかにして科学は驚異への扉を開いたか

虹の解体―いかにして科学は驚異への扉を開いたか

 

に続く、リチャード・ドーキンス(Richard Dawkins 1941~英)第七主著。(間にエッセイ「悪魔に仕える牧師」(垂水雄二訳2004/4早川書房)があります。)原題;THE ANCESTOR'S TALE:A Pilgrimage to the Dawn of Life by Richard Dawkins。2004年の著作です。訳は「悪魔に使える牧師」に引き続き垂水雄二(1942~)です。

 

以下はhonto ネットストアに楊耽のペンネームで投稿した書評のコピーです。

 

利己的な遺伝子」初版刊行から三十年経ちました。今回は趣向を変えて、単純に生物進化の解説です。
ヒトから順に枝分かれした別種の生物との共通の祖先を年代逆順に辿っていきます。
上巻では、最初の合流地点(ランデヴー)1「チンパンジー」の前に、ランデヴー0として、人類の共通祖先を考察しているサービス章があり、第十七合流地点の両生類との共通祖先までを辿ります。

 

この一冊で特に僕が面白いと感じた五箇所を挙げます。
一つめは、人類の共通祖先を考察したランデヴー0。「ミトコンドリア・イヴ」と言う女性だけをたどっていったところで見つかる共通祖先の存在は広く人口に膾炙されるものですが、「女性だけ」に限らなければ、他にも沢山の共通の祖先(それも、アフリカ以外のところで!)がいることを指摘している点です。言われてみれば、なるほど、その通りですが、言われるまで気が付きませんでした。

 

二つめは、近年の古生物学の発展の成果から、音声より直立二足歩行が先にあったことを考察して、もしや、チンパンジーとの共通祖先も二足歩行をしていた可能性に言及している点です。この本出版後に提唱された人類骨食説もこれを支持しているように感じられます。骨を食べるときの姿(この本で言及されている直立二足歩行の前適応としての「座る」と言う姿勢)、骨を食べるための行為(手を使って骨を砕くなど)が、ことごとく一致しますよね。手を怪我したチンパンジーはその後の人生を二足歩行で過ごすそうですし、本当に僕たちとチンパンジーの(約六百万年前に生きていた)共通祖先が、もしかしたら二足歩行していた(少なくとも座って、両手で餌を持ち、食べていた)と考えると楽しくなりました。

 

三つめは、ローラシア獣と合流するランデヴー11。そのなかの鯨偶蹄目の類縁関係です。鯨偶蹄目は、ラクダ、ブタ、ウシ、シカ、カバ、クジラなどを含みますが、カバに最も近縁なのが、同じ四つ足を持つ他の動物ではなく、クジラだと言うことに驚きました。言い換えれば、カバとクジラの仲間は、他のどのローラシア獣より(もちろん、他のどの生物よりも)類縁関係が違いと言うことです。また、この事を著者自身も驚きを以て情熱的に語っていることが面白かったです。
僕たち(霊長類+齧歯類)とローラシア獣類の共通の祖先は、約八千五百万年前に生きていたそうですが、それから約三千百万年間は、まだカバとクジラの祖先は同じで、ようやく五千四百万年前に別の進化の道を歩み始めたと言うことです。これだけの時間があれば、四つ足動物が、魚のように海だけで生活していけるだけの進化をするのですね。また、この四つ足を完全に水中適応するまでの早さについてのドーキンスの理解のしかたを紹介した記述も僕の納得を促してうれしかったです。

 

四つ目は、アホロートル(両生網トラフサンショウウオ幼形成熟個体(ネオテニー))です。胚発生は、近年に生物学が解明した大きな成果の一つですが、変態についての考察も、進化を解き明かす上で重要な示唆を含むという指摘に開眼した思いです。

 

五つ目は、ランデヴー17両生類で紹介されるカリフォルニア州セントラル・ヴァレーに住む数種のサンショウウオを紹介した例です。谷の南端に住む二種は全く交雑する事のない別種の二種なのに、それぞれ北端に向かってゆくと、少しずつ色や形が違う交雑可能な種が住んでいて、ついには、谷の北端で繋がる。(それでは、一体「種の違い」はどこで区切れば良いのだ?)これは、僕が種分化を理解する上で、とてもよい手助けでした。実は、明確な種の区別は、全く交雑不可能となるまでの違いが出る、その中間の種が絶滅しない限り不可能だ、と言うことです。
ドーキンスが今までの著書でも、「人権」が今のように定義出来るのは、チンパンジーと人類の中間の種が全て絶滅しているからで、例えば、旧人や猿人、又は、頻度は少ないが交雑が不可能では無い長年交雑することの無かった新人(もしかしたらイエティや雪男)が生きていたら、別の定義や権利の与え方が必要であろう、と言うことを補強しています。もっともイエティは最近ヒグマを指した勘違いであると結論されたそうです。

 

その他に、ランデヴー10「齧歯類とウサギ類」が、他の哺乳類よりも、僕たち霊長類に近いことや、ランデヴー15「単孔類」で紹介されるカモノハシがクチバシの感覚器官で電気信号を通して(あたかも人間が目を通して)「見る」能力を、独自に進化させた事や、ランデヴー16「蜥形類」でティラノサウルスが、イグアノドンやトリケラトプスよりも鳥類と近縁である事、ダチョウが、他の鳥類とは早くに別れたほとんど独立の鳥類である一方、ドードーなど絶滅した大型走鳥類が鳩の仲間と言うのも驚きで、面白い話題満載の一冊でした。

なんだか、上巻だけで、「おぉ、役に立った。十分。おなかいっぱい」と言いたくなりますが、下巻は、魚類との共通祖先、さらには、昆虫類などと合流する以前の脊椎動物に近縁な他の動物、さらに辿って、菌類や植物、最終的には全生物の共通祖先へまでたどり着きますので、引き続き楽しみに読み進みます。

2009年7月13日
No.523