受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 557 ビッグデータ社会の希望と憂鬱/森健 著 を読みました。

ビッグデータ社会の希望と憂鬱 (河出文庫)

ビッグデータ社会の希望と憂鬱 (河出文庫)

 
本書は、二〇〇五年九月に刊行された『インターネットは「僕ら」を幸せにしたか?  情報化がもたらした「リスクヘッジ社会」の行方』(アスペクト、2005/8)
インターネットは「僕ら」を幸せにしたか?―情報化がもたらした「リスクヘッジ社会」の行方

インターネットは「僕ら」を幸せにしたか?―情報化がもたらした「リスクヘッジ社会」の行方

 
を大幅に加筆・修正し、各章に追記を加えた上、改題したものです。
 
最近頻繁に耳にするようになった「ビッグデータ」。
ビッグデータって何?と思い、本書を読みました。
二〇一二年に大幅改稿されたと言うことですが、元本は、二〇〇五年の発行。どうかしら?と思いましたが、職場でのメールの扱いが少々古めかしく感じられた(※)他は、信じられないくらい、今読みたい内容が記されていてビックリしました。価値判断を避けた取材スタイルが記事に普遍性をもたらしているのではないかと思います。大満足です。
(※)たしかに、十年ほど前は、しばしば上司から「いちいちメールを入れるな。」とか、「関係者には、C.C.で送れ」とか言われたものですが、今はよほど不器用な人でない限り、メールが多いなどと文句を言う事は無いように感じます。
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それでは、目次の順を追ってご紹介します。
文庫増補版・序論:すべてがデータになる時代
ゴードン・ベル(C. Gordon Bell、米1934~)のMyLifeBitsプロジェクトを紹介し、主に個人データとしてのビッグデータの持つ意味から筆を起こしています。その後、コンピューターとコンピューターネットワークの発達に伴い、莫大なデータを取り扱うことが出来るようになった現代、および今後の社会変化についてを論じる旨を記し、本書の序論としています。
プロローグ:ネットワーク社会は「私たち」を幸せにしたか?
著者が最初にインターネットに触れた九四年IIJがダイアルアップ接続サービスを開始した年)から二〇〇五年までの進化に加え、携帯電話利用による情報技術の発展が人々の社会生活、価値観に与える影響と展望を本書で述べる旨を記して、プロローグとしています。
第1章:どんな情報でも配信可能という諸刃の剣
主に電子メールの普及とその影響について述べています。
第2章:ネットを支配していく検索エンジン
googleを始めとするインターネット検索エンジンについて述べています。
一般利用者との中間に位置するSEO業者にも触れています。
検索に頼りすぎる危険性については、翌年に刊行された「グーグル・アマゾン化する社会」光文社新書2006/9/20
グーグル・アマゾン化する社会 (光文社新書)

グーグル・アマゾン化する社会 (光文社新書)

 

 Kindle版もあります。

グーグル・アマゾン化する社会 (光文社新書)

グーグル・アマゾン化する社会 (光文社新書)

 
で、さらに掘り下げられます。二〇一二年のヴォリュームのある増補版【追記】では、検索エンジンが利用者が意識しないうちに集めたデータが、いわゆるビッグデータとして蓄積され、主に企業側に利用されつつある現状についての解説をしています。
第3章:ネットから生まれた参加型ジャーナリズムの行方
二〇〇五年に話題になったライブドアニッポン放送発行済み株式取得から筆を起こして、インターネットと既存の報道機関との関係を論じています。増補版【追記】では、ここで論じた市民記者に代わり、個人情報などを扱う匿名掲示板での活動や、ウィキリークスなどの登場から、未だ過渡期にあるインターネットの疑似報道機関としての特性に言及しています。
第4章:ウェブの進化が民主主義を衰退させる
SNSについて述べています。
本書の白眉だと思いました。個人の小集団がコミュニティーを形成していく過程での変化を述べた後、【追記】で、
若者の生きづらさを緩和するために、家族のような「強い紐帯」よりも「知り合い関係」といった弱い関係性(紐帯)を多く持つことが重要だと提唱した米スタンダード大のマーク・グラノヴェッター教授の指摘が、実は逆に若年層を縛っている
と指摘している点です。
今のオッサン世代にとっては、強い紐帯から抜け出す事=生まれ育った家を巣立つ事は、弱い紐帯の関係=つまり大きな社会の一員として成長する事を意味していたように思います。
一方現代の若い世代にとっては、強い紐帯から離れても、より大きな社会の一員として受け入れられる事が期待できない=階級社会が形成されているのではないかと不安になると同時に弱い紐帯が、単に家族などの強い紐帯の置き換えになって、自由な言動を抑制する足かせになっているのではないか。と指摘しています。(と、僕は読みました。)
本書を読むと、インターネット内のコミュニティーに属している自分が、知らず知らずのうちに、自由な選択を放棄しているケースを理解できます。時には、コミュニティーをちょっとお休みして、独りで別のことに打ち込んだり、考えてみたりすることが必要かな。と思いました。
第5章:ICタグが拓く未来
僕は「えーっ! Edyって、基本的には、SUICAと同じ技術なの!」とビックリしました。(不勉強でスミマセン。)利便性に加え、個人情報を提供しているICタグ技術について解説しています。
第6章:いつでもどこでも個人情報が奪われる社会
引き続き、便利なカードと、個人情報の扱いについて論じています。さて、Tポイントカードは、僕のどんな情報を、お店のネットワークで共有するのでしょうか? ローソンのカードは?
第7章:社員の自由を奪う管理システム
内線電話に利用されて、安上がりな回線が引けるIP電話。これと社員証のIDを連動させれば、とても便利です。だが、同時に会社による管理も厳しくなるはず。
「活用目的が明確でない顧客情報は、ため込まず、即時消去していく。漏洩する可能性がある情報を、あらかじめ持たないことが、個人情報漏洩防止に有効。」
と読んだ覚えがあります。
社員の情報についても、会社にとって不要な内容は、記録しない。とルールを定めるのもリーズナブルかも知れませんね
第8章:安全と監視のトレードオフ
企業の顧客や社員の管理から話題を広げて、社会におけるプライバシーの問題を論じています。例えば、街中の監視カメラ。果ては、GPS技術も連動した、警察組織の交通監視システム。知らないうちに、世の中は管理(と言うか、情報収集)されているものなのですね。
第9章:バイオメトリクスで全国民を特定せよ
生体認証技術について述べています。
第10章:ネットワークで分極化する社会で
本書の一貫したスタンスですが、技術の進歩を肯定するのでも、否定するのでもなく、理解した上で、我々市民がどう扱うべきか、議論をして、方針を決めよう。と提案しています。
文庫増補版・あとがき

 

本書が解説している技術の利便性と危険性、進歩がもたらす社会のありよう、利用する人と、利用される人。情報として豊富であり、今まで気が付かない視点からの指摘が新鮮でした。
でも、本書からはもっともっと大事なことも学んだように思います。
それは、僕が新しい情報に接した際に、直感=感情がどう働くかを気にしていた事に気が付いた点です。今まで、僕は、未知なるものに接した際に、即時「拒否」「受諾」と態度を決めてしまう事が多かったように思います。
そうではなく、緩やかに取り込みながら、その影響を勉強して、どう接するのかをじっくり考えるスタンスもあるのだ。と学びました。
特定の人が意見を書き込む掲示板や、コミュニティー内で、反対意見や突飛と思える提案があった際に、即時に否定や、排除をするのではなく、「おぉ、そう言う考え方もあるか。」と余裕をもちたいと思いました。

 

2014年6月12日
No.557