読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 528 祖先の物語(下) ドーキンスの生命史 を読みました。

祖先の物語 ~ドーキンスの生命史~ 下

祖先の物語 ~ドーキンスの生命史~ 下

 

Unweaving the Rainbow(UK ; Penguin Books 1998/10(Hardcover)、邦訳は、「虹の解体」福岡伸一訳、早川書房2001/03/31)

Unweaving the Rainbow: Science, Delusion and the Appetite for Wonder

Unweaving the Rainbow: Science, Delusion and the Appetite for Wonder

 

に続く、リチャード・ドーキンス(Richard Dawkins 1941~英)第七主著の下巻。

ヒトから順に枝分かれした別種の生物との共通の祖先を年代逆順に辿っていく本書の下巻は、第十八合流地点で魚類との共通祖先から始まります。第十七合流地点の両生類の次です。

しかし!
それは、我々の身近にいる金魚やコイなどの条鰭類ではなく、肺魚
ランデヴー18肺魚
さらに、次の第十九合流地点も、条鰭類ではなく、シーラカンス
ランデヴー19シーラカンス
と、言うわけで、肺魚シーラカンスは、金魚やコイよりも、僕たち人類と(共通の祖先を最近に持っているという意味で)近縁である!と言う驚きから読み始めることになります。
ランデヴー20条鰭類
近年の研究成果では、条鰭類の浮き袋は、肺が変化した器官であり、鰭は手足の変化した器官であると言う説が有力になっているようです。たとえば、愛媛大学分子細胞生物学WEBサーバーの「Ⅱ. 分子細胞生物学サーバーサイトのリスト」から生物の進化脊椎動物ーカエルやイモリが海にいないわけが参考になります。これを読むと「へー、キャビアが採れるチョウザメって、軟骨魚類だけれど、条鰭類であり、サメやエイなどとは異なるのだなぁ。だから、鮫やエイを単純に軟骨魚類として分類できないのだなぁ。」と勉強になります。
ランデヴー21サメとその仲間
ランデヴー22ヤツメウナギメクラウナギ
で、(あごが無く、四肢もない、いわゆる無顎類)と合流します。
ランデヴー23ナメクジウオ
形は魚に似ていますが、ここからは脊椎動物ではないそうです。(原索動物)
ここまでは、まぁ、何となく「僕たちの仲間かな。」と納得出来るのですが、
ランデヴー24ホヤ類
これは、子ども(幼生)の時には、オタマジャクシ型だと言うのですから、驚きです! で、一応、その後、魚へと進化する動物が、彼らの幼形成熟個体だ、と言う説を紹介しているのが、ドーキンスの親切なところです。(本文では、主流の説=ホヤ類が独立に泳がない成体になる生活環を独立に進化させた説を、もちろん支持しています。)
ランデヴー25ヒトデとその仲間
最初の無脊椎動物です。この五角形(または五足)も僕たちと同じような胚発生時の体節構造を持っているのを紹介するのは別の章ですが、それはとても興味深いです。
ランデヴー26旧口動物

 

ここで、僕が、今まで「動物」と考えていたものがほとんど合流します。
たとえば、昆虫。僕は中学生の理科の時間に、先生がこう言ったのがまだ記憶にあります。
「種数が多いことをもって「繁栄している」と言うならば、地球上で最も繁栄しているのは昆虫だ。」と。その昆虫も旧口動物の一種ですが、ひとくくりにするには、たこやイカなどの軟体動物、回虫やギョウ虫などの線虫類も、旧口動物ですから、少々把握しにくいですね。
本書の冒頭で、著者が繰り返し述べている、「人間から出発する本書は、同じく、現世の他のどんな生物からでも、同類の書が書ける。」の通り、僕は、昆虫の一種(例えばバッタ)から、ここまでの物語を読みたくなりました。

 

この章では、特に面白かった四点を書きとどめておこうと思います。

一つは、「アルテミアの物語」で示される、腹と背の関係についての考察。サカサナマズを例に取り、ほとんどが、背中側に神経を持つ、僕たち脊椎動物と、ほとんどが腹側に神経を持つ、旧口動物の成り行きの考察が面白かったです。

 

次は、ヒトの遺伝的差異が人種間よりも、各人種内の個体間での方が大きいと言うエピソードを記した、「バッタの物語」。この意味するところは、お隣さんと僕よりも、より近縁な(遺伝的に差異の少ない)ヒトが、アフリカや、ヨーロッパで見つけることが出来るかもしれない。と言うことです。しかしながら、僕たちからの見た目は、おそらくお隣さんとの方が近いと認識されることは明らか。
本書では、この矛盾をアメリカにおける「黒人」の定義を用いてその難しさを解説しています。あ、この「バッタの物語」自体は、種分化の定義である「自然状態では繁殖能力のある子をなさない」で「別の種の生物」であると定義されるのに、ちょっと温度を操作すると、繁殖能力のある子どもを作るバッタを例に用いて、「厳格な種の区別は難しい」と言うことを、上巻のヤモリの例に加えて、重ねて解説している形です。

 

三つ目は、「ショウジョウバエの物語」で詳しく解説される、ホメオボックス遺伝子による、胚発生のメカニズムです。ちゃんとした解説を読んだことが無かったので、大変勉強になりました。

最後は、「ワムシの物語」で示される、単性生殖生物の存在です。多細胞生物が何故ほとんど性生殖をするのかを説明出来るのだとすれば、種数も多く、繁栄しているこの単性生殖しかしないワムシ類の繁栄は説明できません。現代の科学(ここでは進化論)にも、課題が残っていることを示しています。

もう一つ、おまけにフジツボが、蟹の仲間で、背を岩にくっつける形で定住していると言う解説にも仰天しました。

ランデヴー27無体腔型扁形動物
ランデヴー28刺胞動物
イソギンチャクやサンゴ類、クラゲなど
ランデヴー29有櫛動物
クシクラゲ類
ランデヴー30板型動物
ランデヴー31カイメン類
ここまでが多細胞動物です。
ランデヴー32襟鞭毛虫類
この章では、多細胞生物の進化の経路解明の糸口を示されたように思いました。
ランデヴー33ドリップス
中動菌類。ここまでが動物?です。
ランデヴー34菌類
カビとか、キノコとか。
そう。菌類は、植物よりも、僕たち動物と近縁です。
ランデヴー35アメーバ類
アメーバって、不思議な生物ですね。
ランデヴー36植物
ここまでで、二回単細胞生物と合流しています。
つまり、動物、菌類、植物は、それぞれ独自に多細胞生物として進化したわけですね。
ランデヴー37不確かなグループ
微生物です。
歴史的大ランデヴー
この章では、ついに、生物同士の融合(本書の年代逆順では無い、二種以上の生物の融合)について触れます。
すなわち、例えば、ミトコンドリアを取り込んだ真核生物、葉緑体を取り込んだ植物です。
ここから先は、ミトコンドリアを遡ればよいのか、ミトコンドリアを取り込む前の真核生物?を遡れば良いのか、僕たちの祖先はどちらなのか、と言う疑問が沸きます。どちらも祖先であるわけですが。本書は、ミトコンドリアを取り込む前の真核生物を追います。
そして、
ランデヴー38古細菌
僕は本章を読んで、古細菌の定義を「ミトコンドリアや、葉緑体などのバクテリア由来の細胞副器官を持たない真核生物」と理解しました。この理解が正しいのかどうか、今ひとつ自信がありませんが。
ランデヴー39真性細菌
これが最後です。つまり、バクテリアなどとの共通祖先が、生物の始まりである、と言うことですね。
真性細菌については、ウィキペディア真正細菌が親切でわかりやすかったです。
生物を三分割すると、「真性細菌」「古細菌」「真核生物」の三つであるとした記述は、本書でドーキンスも強調している点です。
カンタベリー
生物の誕生について述べています。本書では以前の著書で紹介した鉱物からの発生では無く、RNAワールド説の概略をわかりやすく紹介しています。
主人の帰還
ふたたび、生物がここから進化をやり直すとしたら?をシミュレートしています。進化を早める原動力をいくつか取り上げており、その中の一つに「体節構造の発現」を挙げていたのが興味深かったです。

 

生物を理解するには、本書を読めば充分。と言い切れるのではないかと感じるほど、充実した作品でした。
僕は、理系と言えども、生物については、高校の授業で習ったモノが最後です。
ですから、少なくとも社会科学や、環境を専門にされる方々も、この程度の理解は、親切なリチャードドーキンスによる本書で可能なはずです。少なくとも、生物を引き合いに出すならば、この程度の理解は欲しいものだなぁ。と言うのが、本書の感想のしめくくりでした。

 

2010年3月23日
No.528