受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 532 もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら/岩崎夏海著 を読みました。

東京都立程久保高校に通う二年生川島みなみが、夏休み直前の七月に突如野球部のマネージャーになり、全国大会出場を決意。

 

ドラッカー(Peter Ferdinand Drucker、1909/11/19 ~ 2005/11/11オーストリアの著書「マネジメント」【エッセンシャル版】基本と原則(上田惇生翻訳、2001/12、ダイヤモンド社
マネジメント[エッセンシャル版]
 

を読んで、野球部のマネージメントに取り組む、青春小説です。

 

先ずは、青春小説として読んで、面白かったです。
主人公みなみを取り巻く、野球部員や他のマネージャー、先生や家族との関係が、みなみの外面と内面からよく描かれていると思います。
みなみが野球に対して持つわだかまりが何なのか。
読み進むに従い読者に明かされていく展開なのですが、そこには、こどもから大人へ成長していく時に誰でも味わう、喪失感や挫折がありました。
肉親との距離感を感じる瞬間や、単に「毎日遊ぶ」と言う関係では無い、友人と心が通う瞬間です。
例えば、初めての恋愛を経験すると、それまで疑問に感じることもなかった親とのつながりが、それほど大切に思えなくなったり、
「早く就職して、一人暮らしをしたいな。」
と思う事が、思春期を過ぎて、高校生ぐらいになったときに、誰でも感じる、独り立ちへの第一歩だと思いますが、本書では、みなみが親に対して疎外感を持ち、与えられた家族では無く、自分で勝ち取った友人との関係を大切に思うようになる過程が、瑞々しく感じられました。

 

また、地区予選に臨んで、勝ち進んでいくクライマックスでの野球部の活躍も、ドラマティックです。

 

本書の特色である、野球部の女子マネージャーが経営学を実践する、具体的なマネジメント手法の解説という側面については、そのスピリットがわかりやすく理解できたと思います。

 

もちろん「俺の部にもみなみのようなマネージャーがいればな。」と他力本願に思う部分もありますが、そうではなくて、部員の一人でも、会社でならば、担当(平社員)でも、自分の出来る範囲で、世界を変える事が出来る「マネジメント」があるのだ。
と教えられたような気がします。

 

この点で、特に印象に残り、僕も実践してみようと思ったのは、
第三章「みなみはマーケティングに取り組んだ」のマーケティング
と、
第四章「みなみは専門家の通訳になろうとした」の通訳
でした。
この本を読むまでは、会社で「マーケティング」をしよう、と言うことになれば、顧客の話を聞くことしか思い浮かびませんでしたが、例えば新商品開発のスケジュール管理をしている僕にとっては、エレキやメカ設計をしている人たちの話を聞くことが、マーケティングではないか。と気付いたことが大きな収穫でしたし、それぞれの専門家として評価され出世した管理職のみなさんが、マネジメントにあまり熱心でなく、専門分野の話に熱心な事を、当然の事と理解して、それならば、誰かがそれを通訳する役割を引き受けてマネジメントが出来るようにすれば良いのだ。と気付いたことは、僕自身のやる気になりました。

 

会社で働いていると、社長以外の人は、みな江戸時代の町人のように、「お上がすることは、なっちゃいねぇ。」と上司の不満を口にして、その組織に埋没している事を理由に自分の限界を決め、あきらめてしまう事があると思いますが、僕はこの本を読んで、「自分にも出来ることがあるのだ。」と思う事が出来るようになった、と言うわけです。
もっと端的に言うと、「俺は、平社員だが、やってる仕事はマネージメントだ。」と定義してやる気が出てきた。と言うわけです。
今後は、まだ手を付けていない
第六章「みなみはイノベーションに取り組んだ」のイノベーション
と、
第七章「みなみは人事の問題に取り組んだ」の人事
について、守備範囲を広げてチャレンジたいと思いました。

 

以上は、hontoネットストア投稿した書評を元に書き直したものです。

2010年7月31日
No.532