受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 216 終業式/姫野カオルコ を読みました。

終業式 (角川文庫)

終業式 (角川文庫)

 

高校の同級生、男女四人を行き来した手紙。手紙だけで構成された二十年に渡る大恋愛小説。

今まで、僕の「好きな小説ランキング」は第一位「村上春樹ノルウェーの森」、第二位「夏目漱石;こころ」だったんですが、この小説がトップに躍り出ました。
同じように、この小説を「好き」と思える人と、僕、は馬が合うはずだ。と思える小説でした。
素晴らしい。
何が素晴らしいと言って、今までの姫野カオルコの得意技「みんな、無意識に、こんな事を表現しているのよ。」を意地悪では無く、包容力で包み込む「人間の業」=「愛の営み」のストーリーとして構築した事にあると思う。
リアリティーも豊富。勉強やお仕事では理性的(だと思われる)都築君が、しかし恋愛に限っては「成り行き任せの遍歴」や、結婚しているくせに「洗濯機あいたよ。」と妻に声を掛ける保坂氏が、とっても、リアリティーありあり。(僕自身の)身に覚えがあるとか、無いとか、じゃなくて、他の作家の作品では、決して味わえない「変な行動」、しかし「ありがちな言動」、が鮮やかに描かれています。
そして、登場人物、全員に対する著者の善意が感じられました。
こんなに、共感できる人物が沢山登場する小説に初めてであった僕は、この著者の「登場人物への善意」が自分への愛情であるかのように錯覚しながら、楽しく、リアルに暖かく読んでいられたのでした。

1999年6月3日
No.216

上の感想文は、読んだ直後の勢いから、手をつける気がしないのですが「僕が一番好きな小説」と書いているワリには、感想が中途半端なので、外部の書評サイト(今は閉鎖されているレビュージャパンに投稿した、レビューを転載します。

僕が一番好きな恋愛小説

僕が一番好きな小説です。
恋愛小説として大好きです。
今までも沢山恋愛小説を読みましたが、この小説が一番です。
他の恋愛小説と、何が違うのか。ちょっと考えてみました。
一言で言ってしまうと、それは「僕の身の丈にあっている。」と言うことです。
もちろん、傷心の海外旅行での出会いとか、クルーザーで港の夜景を見ながらのデートとか、そういう恋愛小説も好きなのですけれども、そこには「僕」がいません。
そう、「終業式」を読んで、僕が「一番好き」と断言できるのは、「たとえば登場人物の中に僕がいても違和感がない。」僕の身の丈にあった恋愛小説だと言うことです。
物語は、一九六〇年頃生まれた同級生四人の高校時代からスタートします。舞台は、静岡県浜松付近。僕が生まれた年代や土地柄とは全く異なります。それでも、「僕が登場してもおかしくない。」と思えます。何故なのでしょうか。
それが、この小説の他では読めない、恋愛小説であるポイントのような気がします。恋愛に対する四人の試行錯誤。これが、ポイントではないかと思います。
都築は行き当たりバッタリですし、悦子は雰囲気に流されやすい。島木は猪突猛進ですし、優子は考えすぎなのですけれども、みんな失敗しながら、少しずつ大人になってゆきます。

 

おきまりのパターンを踏まない恋愛は、試行錯誤、遠回りです。でも「恋愛」って、そういうものですよね。自分の好みの異性は、自分で見つけるしかないし「見つかった」と思ったら、相手にも「見つけた」と思ってもらえるように努力しなくてはならないのですけれども、それって、必ずしも雑誌に載っているようなテクニックがうまくいくとは限りません。もし、失敗したとしても、誰もフォロー(例えば、替わりを見つけてくれるとか?)してくれません。結局、自分でどうにかするしかないのです。たとえ、うまくいって、ドラマに出てくるような、トレンディーな恋愛になったとしても、それが幸せへの切符であると思えません。そんな僕は、登場人物の試行錯誤に励まされるのです。僕も「今は遠回りをしながら、でも前進しているのだ。」と思えるのです。
自分の恋愛観を「遠回りが趣味」とは思いませんが、こんな登場人物たちに共感がもてる人とは、きっと仲良くなれる。そんなふうに思える恋愛小説でした。

2002年2月8日

角川書店から新たに刊行されたので、買ってみました。今回読んでも「やっぱり、保坂の気持ちがよく分かる。」なのですが(^_^;) 今回は、都築が終盤に悦子へ送った手紙(角川文庫ではp328~)にも注目しました。悦子が、相変わらず別れた男へ自分の欲求を訴えている(同p308~)のに比べ、都築のこの手紙は、悦子への接し方(つまりは女性への接し方)の変化が伺われます。男三兄弟の真ん中ッ子として育った彼が、遅まきながら、女性への接し方を学んだ様子が伺えます。僕も、男三兄弟の真ん中なので、今後(ていうか、今、ちょうど、ラストの都築と同い年(^_^;)だから、今こそ!)彼の後に続こうと思います。

2004年3月24日