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受動態

Daniel Yangの読書日記

No. 535 V. T. R./辻村深月を読みました。

V.T.R. (講談社ノベルス)

V.T.R. (講談社ノベルス)

 
この本(最初の新書)のカバーは両面にカラー印刷されています。
表面は、青い背景に正面で拳銃を構えたティーと、後ろ姿のアール。
裏面は、赤い背景に、正面で拳銃を持ったアールと後ろ姿のティーです。
表は、「V.T.R. 辻村深月」で、
裏は、「V.T.R. チヨダ・コーキ」
と記されています。
すなわち、この小説は、前年に発表された「スロウハイツの神様
スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

 
の登場人物、スロウハイツに住む売れっ子作家「チヨダ・コーキ」のデビュー作として執筆されたものです。
 
舞台は、マーダーが跳梁跋扈する殺伐とした世界。物語はティーが三年前に別れた恋人アールからの電話を受けるところから始まります。
僕は、冒頭でのティーとアールの電話でのやりとりから二人が信頼しあった関係であることを理解し、物語の世界に入りました。そして、伝説のマーダー「トランス=ハイ」との関係に気を揉みながら読み進みました。

 

ティーがアールに寄せる思いが、味わい深い作品でした。離れていても解り合える二人と言うのは、ティーとアールのような二人だと思います。

月明かりのペロッチとティーのシーンは情景的でした。

2011年1月23日
No.535

「文庫の解説は赤羽環が書いてるんだよ。」
と教えてもらい、文庫も買いました。
V.T.R. (講談社文庫)

V.T.R. (講談社文庫)

 
もちろん、実際は辻村深月が書いているはずですが、
熱かったです。

 

スピンオフの元ネタ「スロウハイツの神様」で、赤羽環はチヨダ・コーキをリスペクトしつつ、無謀にも同業で彼のライバルにならんとがむしゃらにプロフェッショナルを目指すクリエーターなワケですが、その熱い思いがほとばしっています。
特に、一通りチヨダ・コーキの作品解説を記した後が熱かったです。
ウィキペディアに載せるのに必要な情報だけならば、およそ、こんなところだろう。
と区切った後に、控えめに
一つだけ解説を加えるなら、修正したい箇所がある。」
と語り始める、チヨダ・コーキの作品に対する世間の評価に異議を唱える文章です。

 

チヨダ・コーキの作品はいわゆるジョブナイルとして、少年少女向けの位置づけですが、その位置づけに異議を唱えるのではなく、通過点としての評価に異議を唱えています。
そして、それは、誰もが通って来た道=これから飛び込む不可解な大人の世界と折り合いをつけて、なんとか自分が生きる場所を見付けるまでの、辛く苦しい時期への不当な評価への異議申し立てです。
人生のハイライトを、メディアを支配する大人は「大人時代」だと誤解をする。
は至言だと思う。

 

この解説に感動ました。一流のクリエーターが情熱を燃やし続ける、その燃料は、大人になる直前の辛い、苦しい時代に鍛えられ、蓄えられたものだと思いました。
そして、一流の仕事をするためには、才能だけでも、努力だけでもダメで、彼女のように、文章からほとばしるような、熱い思い=スピリッツが必要なのだと思いました。

 

僕は、赤羽環のような一流のクリエーターでなくて、むしろかなり凡庸な大人になってしまいましたが、それでも、誇りを持って仕事に取り組み、精一杯生きていきたいと思う。その思いの源泉は、僕の場合も、中学、高校生の頃の辛かった時期に養われていた事に気が付きました。

既に講談社ノベルス(新書)で買った方にも、是非、文庫で赤羽環の解説を読んで欲しいと思います。

なお、文庫はトビラを開くと、カラーの疑似表紙があり「V.T.R. チヨダ・コーキ」と記されており、

 
ホンモノの奥付を一ページ戻すと、講談社文庫に似せた疑似背表紙があり、その前のページが代々社文庫(笑)の奥付になっています。

2014年12月10日